益子時代・2

登り窯の燃料は、勿論薪。それも赤松の30・40年ものが一番油が乗っていて火の勢いが良いという。

何処の窯場もそのくらいの薪をほしがるから値段が高い。わが小口窯では経費を抑えるために「バッタ薪」といって、製材所ででた商品にならないいわゆるハギレを安くもらってきて、あまり火力が必要でない焙りの時間に燃やしていた。攻め焚きには良く乾燥させた赤松を使っていたが、時々いくら焚いても温度が上がらないときがある。薪のよしあし、窯や空気の湿気など原因はいろいろあるがそれを打開するには、何といっても火力の高い良質の薪を放り込まなくてはならない。この薪を「小割り」といって、仕事の合間にたくさん作って干しておく。

小割りは、直径5センチ以下長さ約30センチの赤松の枝を縦に四つに割ったもの。簡単に四つに割るといってもこれがなかなか・・・。細いから立てて割れない。左手で薪の下を持って片手斧を薪の腹に入れて割るのだけれど、芯に当たらないと歯が薪に食い込まず、スカッ!と、滑って逃げてしまう。半日もやっていると右手は真っ赤に腫れ上がる。次第に上達して斧が芯に当たるようになってくると、縦にスパン!と気持ちよく割れてくれる。じつは枝にも「目」があって、南側を向いていた面に斧を入れるときれいに割れる。それは木肌の色でわかることを二代目から教わった。最初はぜんぜん見分けつかなかったけれども、何日かやっていると少しずつわかるようになってくる。たかが薪割り、されど薪割り、なかなか奥が深い。

割った小割を束ねて積み重ね、良く乾燥させておき、窯の温度がなかなか上がらないいざというときに放り込むわけだ。細いから投げ入れたと同時にペラペラと勢い良く燃えてしまうが、それを続けると火の色が見る見る明るく変わってゆく。豆だらけの手で小割りを窯に放り投げる。あんなに苦労して作った小割りがあっという間に燃えてしまう。それでも、それまでなかなか温度が上がらずにいた窯が、急に息を吹き返したように元気になるようで複雑だけれど嬉しい瞬間だ。

日頃は朝8時から夕5時まで働き、それからロクロなど練習ができるのだが、この小割りをしている時期にロクロをすると、すこし厄介なことがある。何時間も水挽きをしていると手がふやけて、小割りでできた豆が軟らかくなる。翌日その柔らかい手で小割りをすると途端に豆がつぶれる!これが痛い!それでまたロクロで滲みる!悪循環なのだ。ロクロでなくタタラとか他の練習をすれば良いのに少しマゾの気があるのか、わざわざロクロをやっていた気がする。

ロクロは蹴ロクロ。厚さ10センチ以上もあるケヤキの盤を、右足の裏で手前に蹴りこむタイプ。だから右回転。
普通、ロクロは両肘が固定していなくては芯がずれてうまく挽けない。教室でロクロを教える時は、まず両肘をひざに固定してくださいと指導している。でも、蹴ロクロは右足がいつも動いているからそれができない。自然、左ひじだけを固定するから体が大きく左に曲がった状態で作業する。蹴りこむごとに上体も動く。なかなか大変な作業だ。生まれて初めてのロクロ、蹴ロクロ。しんどかったあ。最初の練習としてぐい飲みを2000、作ってみろと二代目に言われ、いったい何日掛けて作ったのか覚えていないが、削りあがったぐい飲みが「さん板」に乗って、あの煤けた仕事場の屋根裏のようなところにずらーと並んだ時は感無量だった。

次回はその煤けたいとしき仕事場を紹介します

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  1. 所属していた大学美術部の新聞に寄稿しました。

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